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管理人:平井宏樹

三体問題

フランスの数学者アンリ・ポワンカレ(Henri Poincaré 1854-1912)による研究が有名な、物理学上の問題。Wikipediaでの表現をそのまま引用すると、「互いに重力作用する三質点系の運動がどのようなものかを問う問題」のこと。要は天体が三つ近づくとどうなるか、だ。


当サイトは科学専門ではないので、数学的・物理学的な理論の詳細は別に譲りたいと思う。ここでは、この問題の概要についてのみ、簡単に記すこととする。

結論からいえば、一般的には「予想はできない」が答えになる。詳しく知りたい方には、『三体問題 天才たちを悩ませた400年の未解決問題』(浅田秀樹 BLUEBACKS 2021)を勧める。高校数学の範囲で、多少数学に苦手意識があっても分かりやすく解説してくれている。

 

天体が二つ接近した場合の軌道に関しては、1687年にアイザック・ニュートン(Issac Newton 1642-1727)が『自然哲学の数学的諸原理』の内で示している。天体が三つ以上の場合に関しては研究が滞っていたが、1889年、上述のアンリ・ポアンカレにより、特殊な場合を除いて解を導けないことが証明された。
前掲した浅田氏の本のタイトルに「400年の未解決問題」とあるのは、三体以上の天体の接近においても解を導けるケースが現代に至るまで次々と発見されたためだ。こうした特殊解が後の研究に繋がることもあり、こちらの詳細はWikipediaにある「ラグランジュ点」の記事をご参照願いたい。
三体問題の研究において、数学・物理学における「カオス」の概念が見出され、以降「カオス理論」と呼ばれる一つの分野の端緒となったため、この点でもポアンカレの功績は大きい(ポアンカレの名前はむしろ、「ポアンカレ予想」の人ということで知られることが多いだろうが)。

三体問題の話を当ブログで取り上げたのは、この問題の発想、そして「予想不可能」という結果について、個人的に蟲惑的な魅力を感じるためだ。

実際、この問題についての書物がいくつか書かれているし、SFなどの創作にも大きな影響を与えている。「機動戦士ガンダム」しかり、アイザック・アシモフによる「ファウンデーション」シリーズ、未読のため恐縮だが最近話題の長編SF、『三体』(劉慈欣 重慶出版社 2008)にも影響があると聞いている。

物事が多様なことを示す喩えに「三者三様」という言葉があるように、物事は1つのみの場合、2つに分けられる場合、3つ以上の場合とで異なる。「現代は多様性の時代」と言われるが、これは「物事を二分して考えよう」という思考への一種のアンチテーゼである。
そう考えて現代史を眺めてみると、戦後世界を動かしたのは「西側諸国」「東側諸国」は勿論であるが、いわゆる「第三世界」と呼ばれた国々の動向が重要であった(ベトナム戦争キューバ危機がその例である)。冷戦後は東西対立も緩和して勢力図を描くことは難しくなり、第三世界という言葉すら死語となった。

 

つまるところ三体問題は19世紀末という、これから多様性の時代が始まるという時に現れ、「これから世界は三体のカオスな世界に入る」と半ば暗示的なメッセージを含んでいたのではないか、とオカルティックな想像を掻き立てるため、見逃せない気分になるのではないかと思う。
20世紀以降は、ゲーデル不完全性定理やハイゼンベルグ不確定性原理など、そもそも数学や物理学において「できない」ことを示す発見のインパクトが大きかった。これくらいでは数学や物理学の重要性は揺るがないが、少なくとも数学や物理学で扱えない問いもあることが分かった。

現代はコンピュータの発達によって、難しい演算も強引に計算することができるようになったため、三体問題のような状況も一応シミューレーションが出来る。それによって軌道の予測可能な三体問題の例外が次々発見されているが、実際に三つの天体が近づいた時何が起こるか、ほぼ予測不可能なのは変わらない。

 

ラプラスの悪魔」の存在が20世紀に否定されたとき、科学は「全ての未来を知りうる存在」でないことが明らかとなった。常に内容がアップロードされるし、少し前まで常識だったことが一瞬で覆ることもある。それでも現代に至るまで、「科学的に証明されている」という言葉のインパクトは大きい。

信仰を持たない人にとって、科学というのは絶対的な権威になりうる。いわゆる人間の集合知のようなものだし、そうなりうるのも納得できるが、常に更新される可能性を鑑みると「絶対的」な存在から程遠いことには注意すべきだ。その点を忘れないよう、科学との距離感を誤らないようにしたい。

残念ながら、科学は理性の拠り所になっても心の拠り所にはならない。特に日本においては、信仰に対する風当たりはきついように思うのだが、科学との適切な距離を図るには、信仰に関してもよく知っておく必要があると個人的には思うのだ。

 

 

参考

ja.wikipedia.org

bookclub.kodansha.co.jp



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