何かが道をやってくる

管理人:平井宏樹

サンセリフ(San Serriffe)

1977年のエイプリルフールに、イギリスの新聞『ガーディアン(The Guardian)』に掲載された架空の国。書体の一種サンセリフ(Sans-serif)とは綴りが異なるため注意。

 

エイプリルフールのジョーク記事なのだが、力の入れ方が半端ではない。7ページもある特集記事として紹介され、様々な企業が広告も出している(7ページ中4ページが記事を模した広告であった)。この記事をきっかけに、エイプリルフールにジョーク記事を出すという風習が英国のメディアで生まれたとも言われる。

この記事は異例の反響を呼び、旅行代理店や航空会社にこの島についての詳細を求める問い合わせが大量にあったという。サンセリフの気候や文化、歴史を詳細に紹介したのに加え、様々な企業も便乗して好意的な文を送っていたため、ネットのない時代では信じない方が難しいだろう。

石油や化学産業が栄え経済的に豊かで、かつて英国の植民地下にあった歴史があり、現在では民主制が確立されている…など、当時のツーリズムの関心がよく表れている点から、一種の研究対象としては興味深いかもしれない。サンセリフは一般英国人にとってのユートピアだったのだ。

 

類似した例として、自分はジョージ・サルマナザール(George Psalmanazar 1679?-1763)の『台湾誌』(1704)を連想する。原題を全て訳すと『台湾(日本皇帝支配下の島)の歴史地理に関する記述』(Historical and Geographical Description of Formosa, an Island subject to the Emperor of Japan)となり、タイトルからして荒唐無稽である。

サルマナザールは台湾人を自称し、一時は英国では有名な人物であったようだ。勿論事実無根なのだが、『台湾誌』を参照すると、台湾の文化や宗教、言語などについて詳しく書かれている。一説には、ジョナサン・スウィフト(Jonathan Swift 1667-1745)の『ガリヴァー旅行記』(Gulliver's Travels 1726)に影響を与えたとも言われる。

サンセリフといい『台湾誌』といい、こうしたものを見ると人の想像力のエネルギーに驚く。架空のものを創り上げるのにこれだけの労力を割けるという点では、個人的にリスペクトを抱いてしまう。あるいは架空のものだからこそ、のびのびと描けたということだろうか。

 

ところで自分自身、こうしたフェイクにすっかり騙されたことがある。Twitterで偶然見かけた入試問題で、「5のπ乗は整数か。」というものを見かけて、自力で解こうとしたが中々解けず、数学に明るい知人に連絡して助けを求めることになったが、その知人も難儀するということがあった。

その後にこの問題を出題した大学を調べたところ、「国際信州学院大学」理学部の2022年の入試問題だったようで、聞きなれない大学だったため調べたところ、どうやらネット掲示板のやり取りで生まれた架空の大学ということが分かった(ただし公式HPもある)。ちなみに7代目の学長はかの有名な、ひろゆきである。

上記の問題はとても手計算で出来るものではないと判明し、協力してくれた知人に詫びを入れることになったが、インターネット社会となっても調べが甘いと自分のようにフェイクに釣られる人が現れると知った。世の中には笑えないジョークというのもあるので、そうしたものだけには引っかからないようにしたいものだ。

 

 

参考

ja.wikipedia.org

hoaxes.org

ja.wikipedia.org

ja.wikipedia.org

kokushin-u.jp