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管理人:平井宏樹

聖変化

聖餐において、パンやブドウ酒がキリストの体と血に変化すること。

 

カトリック教会には「七つの秘跡」と呼ばれるものがあり、

 

・洗礼

・堅信

・結婚

・終油

・叙階

・聖餐

・悔悛

 

と分けられる。聖餐は秘蹟の中でも、食事に関するものであるだけに教徒の方々の中でも最も身近な部類に入るだろう。それゆえ多くの議論を巻き起こし、未だに決着がついていない部分もある。

 

出典として多く引かれるのが、聖書の以下の部分である。

 


感謝の祈りをささげてそれを裂き、「これは、あなたがたのためのわたしの体で
ある。わたしの記念としてこのように行いなさい」と言われました。また、食事
の後で、杯も同じようにして、「この杯は、わたしの血によって立てられる新し
い契約である。飲む度に、わたしの記念としてこのように行いなさい」と言われ
ました。
( 『聖書 新共同訳』日本聖書協会、コリントの信徒への手紙1 11章24-25節 
Wikipediaより引用)

 


誰かと食事を共にすることは、現代においてもある種、契約に近い意味を指す。
日本でも「同じ釜の飯を食った仲」と言うし、これはある程度普遍的な感覚だろ
う。

だが、実際にパンとブドウ酒がキリストの肉となり血となるかというと、ど
うだろう。その点については様々な立場があるが、ここでは大きく分けて「化体説」「象徴説」「共在説」を紹介する。

 

「化体説」はシンプルに、秘蹟の力でパンやブドウ酒がそっくりそのまま、キリストの血肉となると主張するもので、カトリック教会やギリシア正教会がこの立場に立つ。
「象徴説」は、パンやブドウ酒はあくまでキリストの血肉の象徴でしかないが、秘蹟によってキリストの受難などを想起させる働きがあるとし、「想起説」とも呼ばれる。宗教革命を率いた一人、ツウィングリが主張したことで有名である。
「共在説」は複雑である。マルティン・ルターの提唱であるが、パンやブドウ酒
秘蹟を受けることにより、パンやブドウ酒であると同時にキリストの血肉にも
なるとする。同時に二つの存在になるということで、これが「共在説」の名前の
由来となっている。
「共在説」についてもう少し述べると、ルターの立場の背景には、聖書絶対主義
がある。聖書には、秘蹟によって変化するとも書かれていないし、象徴するとも
書かれていない。奇妙な説に思えるが、聖書の記述には恐らく最も誠実な立場である。量子力学で言われる「状態の重ね合わせ」を連想するが、そうした複雑な存在論が16世紀にあったというのは興味深い。ルターの立場に関しての一節を文献から引用し、ここでの注釈とする。

 

 

 ルターは聖餐のパンの中におけるキリストの実在を、この創造主である神の「内」や「充満」によって説明し、時には、制定語がなくても、キリストの体の遍在についての説明が可能であるかのようなことを言っているが、彼としては、別段、奇矯なことを言っているつもりはなく、聖書にしたがって、神の「内」や「充満」を言っているだけで、どこが悪いのか、エレミヤも言っているではないか、と言いたいところであろう。(中略)

 創造主なる神が全能の力をもって、現在、世界をくまなく、内からも、外からも、支配し、保持し、導いている。これがルターの確固たる信仰である。しかしその支配の仕方は一様ではなく、人間の目にもあらわではない。時には全く支配が行われていないと思われることもある。彼は同時性の論理によって遍在について「どこでも」(allenthalben)と共に「どこにもない」(nirgend)を繰り返し言う。神は遍在していると同時に、「どこにも存在しない」と言うことができるのである。

(『宗教改革者の聖餐論』赤木善光 教文館、p135)

 

 

ちなみにカトリック総本部、法王庁にはこうした秘蹟を科学的に調査する部署がある。聖変化の例でいえば、「パンがキリストの体に変化した」とする報告がいくつかあり、それに対して科学的に正しいと示したこともある。

ただ、フランシスコ教皇になって同様の報告があった際、法王庁はその秘蹟を科学的に否定したこともあり、盲目的に追認しているわけではない。現代的な合理主義も受け入れようという姿勢が見えて、法王庁の態度の変化を実感できる部分といえる。英語だが、詳細記事を参考に載せるので、興味があれば読んでほしい。

 

余談になるが、最近、藤木稟氏の小説『バチカン奇跡調査官』を大変面白く読んだ。探偵小説としての面白さを失わず、信仰と科学の葛藤という難しい課題に積極的に挑むのは度胸がある。主人公二人のキャラクターも分かりやすく、読みやすい。法王庁の科学調査がいかなるものか、もちろん潤色は多々あるだろうが、イメージするにはもってこいである。テレビアニメ等でご存知の方も多いだろうが、こちらもついでにオススメしておく。

 

 

参考

 

ja.wikipedia.org

ja.wikipedia.org

www.kyobunkwan.co.jp

ja.wikipedia.org

cruxnow.com

kadobun.jp